ブータン到着早々、日本人の修行僧に会うために標高3500m程の高地に建つタンゴ僧院を目指しまし た。車の通らない山道を酸素補給しながらやっとの思いで辿り着いた僧院は、抜けるような青い空に浮 かぶ鳥の巣のような所でした。
 彼は別の僧院に移ったということでしたが、私はこの僧院に来させていただいたことに心から感謝しま した。日本では感じたことのない、何とも純粋で凛とした強いエネルギーに圧倒されたのです。日本式 の坐具を使った三拝でご本尊にご挨拶をさせていただき、修行道場の統括者である活佛の席を見せて いただいて帰る途中、ストゥーパにお参りしようと行ってみると、何とそこには活佛ご本人がお供を2人 連れて休憩されていらっしゃいました。
 ブータン人のガイドはあまりの喜びに興奮しながら、私にさっきのあの三拝で活佛にご挨拶なさいと 勧め、お連れの僧侶の方にご挨拶の許可を取ってくれました。分厚い眼鏡をかけた10代と思われる程に 若い活佛は、挨拶を受けて下さり、流暢な英語でお話しされました。遠いところからよく来てくれたと、 ねぎらいの言葉を下さり、高僧のみに許される方法で頭を撫でてもくださいました。最後にお供の方に 活佛に一緒にお写真に入っていただけないかとないかと聞くと、即座に断られました。お話をさせていた だいたことにもっと感謝すべきだと、彼らの態度は物語っていました。
 日本に帰って『幸せ大国ブータン』(ドルジェ・ワンモ・ワンチュック=前王妃 著)を読んでみると、 タンゴ僧院の若き活佛は、4歳で見つけられてブータンの仏教界を騒然とさせた存在だということが分か りました。ブータン王室にも保護され、経過観察された後、1999年に17世紀の高僧デシ・テンジン・ラ プギェの生まれかわりだと正式に認められ、10歳でタンゴ僧院の統括者として即位された希有の活佛だ ったのです。
 日本人の修行僧に話を聞きたくて出かけたタンゴ僧院は、ブータン人でも話はおろか、目の前で見る ことすらなかなか出来ない方との出会いをくれました。首都ティンプーの一年で一番大きなお祭りを主催 する活佛が、前日にお祭りが終わって大変お疲れの日に、僧院へ戻る途中で一介の日本人僧侶にお時 間を割いて下さったのでした。